国際開発事業研究会報告    2010年3月23日(於:日本記者クラブ)

 北朝鮮の脅威と日韓の対応戦略
  
       高 永喆(国際開発研究所アジア情報センター客員講師・研究員

はじめに
  拉致や核・ミサイルに象徴される『北朝鮮』と言うテーゼは日本最大の話題・関心事であり外交懸案問題である。90年代初、東ドイツと旧ソ連の崩壊に伴い北朝鮮も間もなく崩壊するだろうと期待した。それから20年が経った今日、北朝鮮は核・ミサイル開発で更に強くなった。金正日政権を支える軍部の力が強くなった訳である。冷戦後、東アジア地域は依然として『中国覇権』『旧ソ復活』『北核武装』に象徴される大陸国家の脅威に直面している。海洋国家同士の日、米、韓3国は常に核・ミサイルを後ろ盾にする北の瀬戸際外交に引き込まれた前例がある。ここで筆者は韓国国防省の分析官を勤めた現場フィールド経験に基づいて北の脅威と日韓の対応戦略について考察、まとめた。
             
北朝鮮の強みと脅威
 北朝鮮に対する我々の認識は食糧難で「貧しい国」「片田舎国」と言うイメージと「後進国」と言う先入観がある。しかし北朝鮮の強みを挙げれば『核・ミサイル開発』『WMD(大量破壊武器)』『特殊部隊』『工作活動』などは先進国並みのハイレベルである事が分かる。         
 在韓米軍司令官は毎年、米下院で「核兵器は抑止力の兵器だから使わない。有事の際、直ぐ使えられる北の特殊部隊が最も怖い存在だ」と証言している。
 北朝鮮は117万兵力のうち特殊部隊だけ19万人を保有する。自衛隊の陸、海、空兵力を上回る即戦力である。因みに、今年3月26日、韓国軍艦沈没事件も北特殊部隊のテロ攻撃である可能性が高い。北朝鮮は通常兵器の劣勢を挽回するために核・ミサイル開発のほか生物化学兵器を5,000tも備蓄している。米、ロに次ぐ3番目の備蓄量である。
      
核・ミサイル開発能力と国際テロ
  北朝鮮は貧しい国なのに世界147カ国に大使館、領事館、貿易事務所を設けて外交、貿易の他に国際工作活動を行っている。拉致事件もヨーロッパなど国際舞台で行われた。   拉致事件をはじめミヤンマーでの韓国閣僚16人爆弾テロ、大韓航空機爆破テロなどを見ると冷戦時代のCIAやKGB活動に等しい国際的な破壊工作活動である事が分かる。
 北朝鮮が申告したプルトニウム量は30kgだが米情報当局は45kgのプルトニウムをもって約6~7個の核爆弾を製造した可能性が高いと分析する(核爆弾1個製造に必要なプルトニウム量は約6~7kg)。過去88年、イ・イ戦争の時、イランがイラクに発射した77発のスカットミサイルは北朝鮮製であり年間10億ドルを輸出した先例がある。故に、近い将来、米本土まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する能力があると米当局は分析している。

なぜ日本が狙われるのか?
  1950年6月25日、朝鮮戦争が勃発するや北朝鮮軍は3日でソウルを陥落して2ヶ月ぶりに釜山を除く半島全土を占領した。しかし同年9月15日、釜山陥落直前の危機状態で米韓連合軍は仁川上陸作戦に成功して、北朝鮮軍は北へ退却し赤化統一機会を失った。当時、上陸軍艦隊が出港したのが横須賀、神戸、佐世保だった。もし、第2次朝鮮戦争が勃発する場合、在日米軍と日本の港湾インプラー施設をミサイルで破壊しないと北朝鮮は再び戦争に負ける。“そうならば北朝鮮は終わり”という懸念から日本が狙われている。朝鮮戦争の教訓から得た戦略的な考え方である。赤化統一は変らぬ北の国家目標である。米軍撤収後のベトナム赤化統一とアフガン駐屯ソ軍撤収後のソ連崩壊は北が真似するモデルである。故に日米同盟と韓米同盟こそ地域安保を支える両柱である。
 安保同盟の基軸である「遠交近攻」と「勢力均衡」は国際関係の核心テーゼである。

北朝鮮の戦略的な安保環境
  冒頭の言及とおり90年代初、東ドイツと旧ソ連の崩壊に伴い北朝鮮も崩壊すると予測した。それから20年が経った今日、北朝鮮は更に強くなり体制崩壊の兆しが見えてこない。政権を支えるのは軍部であり軍部を支えるのは核・ミサイル戦力である。
  北の独裁体制が崩壊しない内部要因は国家保衛部の住民監視と保衛司令部の軍部監視の為である。不平不満を言うと直ちに内部告発され政治犯収容所に監禁される。
 外部要因としては東アジアの地政学的な特徴と安保環境である。周辺国が現状維持を望む外交安保路線を取っている。韓国も急に南北統一した場合、北朝鮮を養う経済余力がない。
 従って周辺国の現状維持スタンスと外交安保路線に足並みを揃っている。米国の対応戦略も『やぶ蛇論』『窮鼠噛む猫論』『韓日人質論』『熟柿崩壊論』に基づいて現状維持・Soft‐landing政策を取っている。北朝鮮地域は5~6世紀ごろ中国の東北3省を領土に治めた高句麗地域だった。高句麗は中国の隋、唐が2回侵攻したが全て撃破した史実がある。
 大陸勢力との絶えない戦争、寒い気候、山岳地形は戦闘的で荒っぽい性格を育んだ。
北朝鮮出身の有名な人物は韓国初の李勝晩大統領と力道山、伊藤博文総理を暗殺した安重根、現代グループ創業者、鄭周泳などを挙げられる。彼らは皆粘り気と根性がある。

まとめ(日韓の対応戦略)
  北核・ミサイルは特権階層と軍部が生き残る為の切り札として廃棄可能性は低い。  ここで日韓の対応戦略・生存戦略として最も手っ取り早い方法としては『日韓核武装論』もあるが現実的ではない。その代わりに『核開発臨界態勢』と言う選択肢がある。   日本、韓国は原子力発電技術に基づく核開発能力がある。従って危機発生の兆しがある場合、直ちに核兵器の組立てが出来る臨戦態勢を整える対応策が求められる。
それに加えて情報大国を構築すべきである。日本は世界一のハイテク技術を持っており内視鏡を発明するなど優れた情報感覚(Intelligence sense)と情報DNA・遺伝子が潜在している国柄である。核開発臨界態勢と情報大国を構築する事によって日韓両国は初めて大陸国家の核脅威に対応できる危機管理(CrisisManagement)態勢が整えると考える。

高
高 永喆(コウ ヨンチョル)

略歴:
 1975年韓国朝鮮大学(文学部)卒業、海軍将校任官、海軍大学卒業(正規18期、海軍少佐)、 米国防総省DIA短期教育修了、拓殖大学大学院卒業(国際協力学研究科・安全保障専攻)。
 海軍士官学校本部隊長、国立海洋大学・ROTC将校教育団教官兼教務課長歴任。
 その後、済州道地域司令部情報参謀、国防省情報本部分析官に在職。1994年退官するまで国防省日本担当官として韓日防衛交流事業担当。
 現在、拓植大学、防衛大学校特講及び地方講演のかたわら著書執筆に尽力中。



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